2010年1月24日日曜日

本:関口存男の生涯と業績

『関口存男の生涯と業績』

文学部独文学専攻教授 和泉雅人

『関口存男の生涯と業績』を紹介しよう。
本書の存在についてはドイツ語関係者のなかでも
意外に知らない人が多いが、これは読んで涙を流したりとか、
わくわくしたりとかする類の本ではない。
もともと関口を追悼するために製作された本書は、
「ドイツ語の天才」と絶賛され畏敬された関口存男が
いかにして少年の頃からドイツ語を学習してきたか、
その赤裸々な告白の書でもあるのだ。
そこからは「天才」などという手垢のついたお手軽な呼称とは裏腹に、
凄愴といっていいほどの努力の跡と語学学習上の知恵が読み取れる。
とはいえ、関口は語学学習の気構えや方法や要諦を気取らず威張らず、
ユーモアたっぷりに学習者たちに向けて語りかけている。
語学学習者の指針とすべき教訓を山ほど含んだ
珠玉の書であるといっていいだろう。

日本から一歩も外に出ることなく
「ドイツ人よりもドイツ語ができる」と言われるまで
自己を鍛え上げた関口存男の名前を知らないドイツ語関係者は存在しない。
ドイツ語を選択した塾生諸君なら「接続法I式、II式」といった
文法概念くらいはきっと覚えているだろう。
この概念呼称は関口が創案したものであり、
それがドイツの研究者たちに受け入れられ、
それがまた日本に輸入されて広まったものだ。
日本最古のドイツ語学習雑誌『基礎ドイツ語』を
戦前に創刊した人物としても知られているが、
なによりもドイツ語学界や教育界に巨大な足跡を残した
偉大な学者であった。
義塾のドイツ語関係者、
とくに長老級の先生方には関口存男の薫陶を受けた人が多い。
惜しくも数年前に他界されたが、
ドイツ語教育の改革者としていまなお知られている
故関口一郎教授(環境情報学部)は孫にあたる。

関口存男はドイツ語のみならずフランス語、英語、スペイン語、
ロシア語、北欧諸語、ラテン語、ギリシャ語、サンスクリット語、
中国語、韓国語その他を初めとする近代・古典の諸言語にも通暁していた。
その広大無辺といっていいほどの諸言語にかかわる博識によって、
かれは「意味形態論」を打ち立てた。
この理論についての詳細は義塾に所蔵されている『関口存男著作集』や
かれの主著
『冠詞:意味形態的背景より見るドイツ語冠詞の研究』全3巻を見てほしい。
かれが残してくれたさまざまな語学書・参考書は
いまでもドイツ語学習者の基本書中の基本書である。
怠惰に流されることの多い塾生は(塾生のみならず小生のような教員も)
たまにはこういう本を読んだほうがいい。

荒木茂雄[ほか]編『関口存男の生涯と業績』
東京 : 三修社 1967年

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和泉雅人教授は、わたしが大学学部・修士時代に
最もお世話になった二人の先生のうちのお一人。
学部2年のとき和泉先生にドイツ語を教わらなければ
今日のわたしはありませんでした。

また、このブログのタイトルは
『関口存男の生涯と業績』中の
エッセイ「くそ勉強に就て」に由来します。

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